わたしたちの赤ちゃん、ごめんなさい。
ママは、あなたを引き留めようと必死でしたけれど、だめでした。
冷たい雨が降る夜、ママには、あなたの声が、はっきりと聞こえた気がします。
「ママ、バイバイ。ぼく、行くね」
その日から出血が続き、あなたは天に戻ったのだと、ママは悟りました。
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ボストンに渡航する前夜、妊娠が判明した際、夜遅くではありましたが、両親に電話しました。
私「おめでた、です」
父「誰が?」
不甲斐ない娘が母親になるという事実を、父はとっさに呑み込めなかったようです。
隣の家のネコがおめでたで、こんな時間に電話したりしないでしょ。
隣の家のネコがおめでたで、こんな時間に電話したりしないでしょ。
私「本当に明日から、アメリカに独りで行って良いものでしょうか」
父「行ってきなさい。でも、ひとつだけ覚悟しておきなさい。
妊娠5週目だと言ったね。妊娠初期で、流産する確率は15%だ。
それは、胎児に遺伝子異常に由来することがほとんどだ。
何か起こっても、決して、自分を責めたりしないように」
牛のように頑丈な私が、流産するはずなんてない。
父の警告を、しかし、愚かな娘は笑って聞き流していました。
後ほど、その一言が、どれだけ救いになるとも知らずに。
後ほど、その一言が、どれだけ救いになるとも知らずに。
しかし、流産したことが判明すると、夜も眠れずに、理由捜しを始めてしまいました。
重い荷物を持ったのが駄目だったのかしら。
零下10度の中を、友達を訪ねて行ったのが良くなかったのかな。
渡米前に、連日、朝2、3時まで仕事を続けていたのも、きっとアウトよね。
主人と離れて、独りでいるストレスが、やはり悪かったのかも。
・・・どう考えても、私が悪いんだわ。
夫にも、八つ当たりしてしまいました。
私「あなたが妊娠すれば良かったのよ。そしたら、わたしがどんな苦しいか、判るのに」
夫「それだけは、できない相談だねぇ・・・」
父からお叱りの電話がかかってきたのは、そんな時でした。
「自分を責めるなと言っただろう。お前やT(夫)が悪いんじゃない。
妊娠初期の流産は、自然の摂理で起きることなんだ。」
母が電話口に替わりました。
「あなたを授かる1年半前に、ママも流産したのよ。
流産したすぐ後に、妊娠しようなんて思っても、だめですからね。
ちゃんと、心と体を整えないといけないわ。
時期が来たら、ちゃんと、赤ちゃんは来てくれるから」
大きなため息をついて、母は言いました。
「あなたが、どれだけ、待望の赤ちゃんだったか、やっと、判ったでしょ」
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Swartz教授に、流産を告げた際、彼女はがっかりと肩を落としました。大丈夫?
「この研究室でも、いろんなケースがあったわ。
出産予定日の2週間前に、赤ちゃんの首に紐帯が巻きついて、死産した人もいる。
再来月に出産するポスドクも、去年、流産したわ。
でも、みんな、ちゃんとそれぞれのケースを乗り越えて、家庭を築いているから」
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ハーバードでの最終日、Swartz教授のオフィスにお礼に伺いました。
驚いたことに、教授は、プレゼントを用意してくださっていました。
手渡された包みをそっと開けると、中から出てきたのは
“Make Way For Ducklings (かもさんおとおり)”の絵本。
“Make Way For Ducklings (かもさんおとおり)”の絵本。
その扉に、直筆のメッセージがありました。
フランクとキャシーより
(私たちの子どもも、この本が大好きだったの)」
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