2011年4月16日土曜日

辻井伸行さんのコンサート

先週は39度台だった熱も、お陰様で収まってきました。
夕方になると、するすると熱が上昇することもありますが、
そんな時は、早めに自宅に帰って、休むようにしています。

ことり。
と小さな音がしました。
廊下の明かりが、夕闇に沈む寝室に忍び込んでいます。
誰かがドアを開けて、部屋に入って来たようです。
主人は先週、日本に帰ったのにな。

「どなた?」
と聞いても、答えはありません。

怖くなって、起き上がってみると、
「犯人」は、ベッドの足元にいました。


下宿屋の御主人の、ねこ。



先週末、熱が少し落ち着いた日の夕方。
辻井伸行さんのリサイタルに出掛けました。

4年に一度開かれる、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで、
日本人初の優勝という快挙を成し遂げた、全盲のピアニストです。
東京では、辻井さんのコンサート・チケットは即完売となるため、
ずっと聴きに行きたいと思いながら、行く機会がありませんでした。

演奏会の冒頭、辻井さんが挨拶をされました。
「震災で被害に遭われた方々、救助に当たられている方々、
  その人々に援助、それに優しい思いと言葉を寄せてくださっている、
  すべての方々に、この演奏会を捧げます」

その日の曲目は、
●モーツアルト ピアノソナタ 第10番 ハ長調 K.330
●ベートーベン ピアノソナタ 第17番 「テンペスト」
●ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

ニューイングランド音楽院で開かれたリサイタルには、
夜8時という開演時間にもかかわらず、多くの親子連れが来ていました。
チューインガムを子どもに与える親(!)、それを平気で食べている子(!!)もいましたが、
辻井さんの演奏が始まると、就学前の子どもも、食い入るように聴いていました。

「展覧会の絵」の掉尾を飾る『キエフの大門』では、
音の塊が、自分を包んで、圧倒していくのを感じました。
辻井さんの渾身の演奏に、街並みが力強く立ち上がっていく光景が目に浮かぶようでした。

ムソルグスキーが、亡き友人ハルトマンを悼んで作曲した「展覧会の絵」。
その曲に、辻井さんが込めた、鎮魂と復興への想い。
会場はスタンディング・オベーションで応えました。

ブラーボの声がこだまする中、その声がする方向に向かって、丁寧にお辞儀する辻井さん。

明日に向かうエネルギーを分けてくださって、ありがとうございましたと、
辻井さんご本人と、彼の才能を見出し育まれた、お母様のいく子さんに、
楽屋でお礼を申し上げて、会場を後にしました。

その時に、体中に感じていた熱は、
病によるものでは、なかったはずです。

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