2011年3月3日木曜日

サマーズ元財務長官に会ってみる。

ハーバード公衆衛生大学院では、政策担当者を招いたセミナーが頻繁に開かれます。

Division of Policy Translation & Leadership Developmentが大物ゲストを招聘、
HSPH卒業生が公共分野でキャリアを積むことを想定し、
在校中に「現場の声」を共有してもらう企画です。

昨日は、Lawrence Summers国家経済会議(NEC)委員長が登場。
そう、サマーズ元財務長官。
クリントン政権下、94年のメキシコ通貨危機を収拾した実績で知られ、
オバマ政権の経済政策ブレーンとしても有名です。

今回のテーマは、『金融危機におけるオバマ大統領のリーダーシップ』。
中身はしっかりと「サマーズ委員長のリーダーシップ」に替わっていたのが、彼らしいところ。

氏はまず、08年のリーマンショックを、
市場のグローバル化がこれまで以上に進展した中で起きた金融危機と特徴づけました。
その中で、政策立案者が「正しい選択をすること」と「国民から愛されること」を両立するのが、
いかに難しいか、そして「正しい選択をすること」がいかに重要だったかについて語りました。

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百年に2~3回起きるような経済危機では、「経済の自動安定化装置」がはたらかない。
市場の不信がさらに不信を呼ぶ、負のスパイラルが加速する。
この中では、市場の信頼を取り戻すのが、もっとも安上がりで、効果的な介入だと考えた。

危機の直後、オバマ大統領に真っ先に進言したのは、
市場の信頼を回復させるためには、
「打つ手が足りない(doing too little)」のは、
「やりすぎる(doing too much)」よりも、ずっと悪いということ。
とにかく大胆な手を、市場に先んじて打っていくことが先決だと伝えた。

当然、モラルハザードの問題が発生する。
特に、自動車産業の救済に際しては、この問題がクローズアップされた。
「国民に愛される」ことも考慮に入れ、
(特にハイイールド債に投資していた)投資家には責任を取ってもらう一方、
政府が自動車産業の再生のために公的資金注入を行った。

このように、危機の際、政策のコストと効果のバランスを見極めて、
迅速に行動することが必要になる。

また、危機の際には、政策をメディアに発信する際、言葉を慎重に選ぶことが肝要となる。
僕のポストには、僕一人しかいない。
ひとたび信頼を失えば、取り返すのは非常に難しい。
誰も替わりはいないのだという緊張感を持って、情報発信しないといけない。
過度に楽観的であっても、過度に悲観的であっても、国民も市場も誤解をする。
尚、08年危機が深刻化した背景には、米国が過去の危機の経験に学ばなかったことがある。
経済史を専攻していた自分の娘に、
1980年代のS&L危機、ラテンアメリカ経済危機について尋ねたところ、
「教科書に載っていない」と言われた。
政策判断には、過去からの教訓を常日頃しっかりと学び、活かすという姿勢が不可欠である。
思考訓練を怠ってきた対価は、果てしなく大きかったと思う。

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傲岸不遜なキャラクターで鳴らしているサマーズ氏ですが、
非常に丁寧に、自分の経験を話してくれました。

最後に、学生との質問応答。

Q1:「政策判断の迅速性と慎重さとどちらを優先すべきですか?」


A1:「常日頃、政策判断をする上で、二つのことを心掛けている。

第一に、元上司であったロバート・ルービン財務長官から学んだ、
『十分に思考を尽くすという習慣』こと。
政策を考える際、その政策を行った場合のリスクと、行わなかった場合のリスクを、
それぞれ考えるようにしている。

第二に、『実行スピードと慎重さのバランス』を重視すること。
○待っていても状況が変わらないのであれば、いますぐ決断する
○待っていられる判断は、すぐには行わなくていい
という姿勢を明確にしている。

’98年の韓国通貨危機の際、3日ほど様子を見たのは、
米国市場は感謝祭の休暇に入っており、考える余裕があったため、
判断の慎重さを優先できたという状況があった。

残り2分となったところで、最後の学生からの質問。複数の手が挙がったが、最前列にいたブロンド美人学生をすかさず指名。サマーズ氏、なかなかお茶目な方。

Q2:「映画『ソーシャルネットワーク』で描かれた自分の姿についてどう思われますか?」

サマーズ氏、目を白黒させています。
会場は爆笑に包まれました。
氏はハーバード学長時代、問題発言で辞任に追い込まれた経緯があります。
映画の中では尊大キャラとして描かれてしまいました。

A2:「えーとね。

あの映画の中のセリフのような発言はしていないし、あんな行動はとっていないと思うけれど。
まあ、僕が、傲慢な学生に対峙しないといけなかった、傲慢な学長だったとしたら、
それはその通りだし、そのように描かれたのは、私の不徳の致すところです。

あはは。」
大きな拍手に包まれて、セミナーは終了しました。 

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